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本、建築、ときどき旅。
by fracoco-Y
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今井兼次展
二日続けて建築展へ。
多摩美術大学の付属美術館にて、今井兼次展。

早稲田大学や多摩美術大学で教鞭を執った
プロフェッサー・アーキテクトであり、
ガウディやルドルフ・シュタイナー(教育でも知られる)の建築を
いち早く日本に紹介した人物でもあった。

大学の卒業設計から展示は始まる。

建築展を見る度に思うのは、(図面上手いなぁ)ということ。

今井兼次の卒業設計は、アール・デコの影響を感じさせるものだった。

名前は知っているけど、何を設計したのかは、実はあまり知らない。
私にとって、今井兼次とはそういう建築家だった。

展示を見ると、グンナール・アスプルンドのような、
北欧の建築家の影響を受けたらしい。

実現には至らなかった、広島の商工会議所の建築案を見て。
48枚の図面は、すぐにでも工事にかかれそうなほど。
惜しくも、何らかの理由で計画が頓挫したのだろう。
実現したものももちろんあって、早稲田大学図書館や、
浅草ー上野の地下鉄駅。
教職にあった早稲田大学からは、派遣されて欧州を熱心に視察している。
パリでは40代のコルビュジェに会い、インタビューを試み。
また、東京での地下鉄の設計がすでに決まっていたものか、
ベルリンでは、地下鉄を詳細に見て回り、三冊のスケッチを残している。

どちらかというと遅咲きの建築家で、
広島の日本26聖人殉教記念館などは、70歳を越えての作品。
作風は同時代のモダニズムの流れとは一線を画す。

92歳の長寿。
長生きもまた、才能のうち、と
# by fracoco-Y | 2007-10-15 12:03 | architecture
キューバ!
何年も前に見た、旅行雑誌に載っていた、キューバの風景が忘れられない。

信じがたいほどの海の碧。
金満家の吸うようなイメージのハバナ葉巻を、
道端にしゃがんでくゆらす町のおばあさんのいなせさ。

その時、キューバに憧憬が芽生えた。

その後、試写会で見た、ヴェンダースの
「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」。
古色蒼然とした、ハバナの町並み。静謐で、時間が止まってしまったかのような。

ハバナの町のように熟成された様子のミュージシャンたち。

映画はよかった。
表現したい気持ちを抑えて、カメラの回るのにまかせた感じがあって、
それがよい方にはたらいていた。

キューバはヘミングウェイの移り住んだ土地でもあった。

少し前に、新聞にキューバの記事。
フィデル・カストロにインタビューを試みたアメリカ映画の話。

生まれ変わっても、だったか、永遠に、だったか、
「権力を持ち続けたいか」という質問に対して、
「そんなことは出来ないし、また望むべきではない」と、
きっぱり応えたカストロ議長。
キューバには政治的腐敗が少ない、とも言う。

決して豊かではないが、人々の教育水準は高く、大学まで学費は無償。
ある日本大使館員の家庭で、メイドとして働くある女性は、精神分析ができるとか。

それを読んで、ますますキューバに惹かれた。

今夜の世界遺産はハバナが舞台だった。

クラシカルな町並み。
その街中を走るクラシック・カー。
キューバ革命後、資本家の多くは国を離れ、あとに車が遺されたのだそうな。

キューバを旅したら…。

ラム酒を、たっぷりのさとうとライムとミントとサイダーとで割った、
氷を浮かべたモヒートを飲みながら、ぐにゃぐにゃになって、
ますますキューバに眩惑されるのかも知れなかった。
# by fracoco-Y | 2007-08-06 01:03 | journey
珈琲哲学序説
図書館のほど近くに、旨いコーヒーを飲ませるP・・・という喫茶店がある。
自家製のケーキの数々も、見た目も美しく、美味なのである。

ふたたび、寺田寅彦について。
随筆集の中に「珈琲哲学序説」というのがあって、
珈琲好きの私には面白かった。

寺田は三十二の歳に、ベルリンに留学している。
ベルリンの下宿の女将は陸軍士官の未亡人だとかで、
ひどく威張ったばあさんであったのが、
コーヒーは、よいのを飲ませてくれたそうである。

ヨーロッパの朝食は、軽い。
そのため、午餐はボリュームがあるので、相当多量の昼食を腹へ収めた
あとでは、必然的に重い眠気が襲来する。

四時から再び始まる講義までの二、三時間を下宿に帰ろうとすれば、
そのうちの大半を交通に費やすことになるので、
著者は、いろいろの美術館を丹念に見物したり、
フリードリヒ街やライプツィヒ街のウィンドウを覗き込んで、
ベルリンの銀ブラをしてみたりして、それでも潰し切れない時間を
カフェーやコンディトライの大理石のテーブルの前に過ごしながら、
新聞をひろげて「ミット」や「オーネ」のコーヒーをちびちびなめながら、
淡い郷愁を瞞着するのが常習になったという。

帰朝してからは、銀座の風月へ行ってコーヒーをすするのが習慣になった。
当時は、まだコーヒーらしいコーヒーを飲ませる家が少なく、
店によると、よく考えないことにはコーヒーだか、紅茶だかわからないシロモノを
飲まされ、あるいはひょっとすると、汁粉のような味のするものを
飲まされることさえあったそうだ。

その頃の給仕人が、和服に角帯姿というのもおもしろい。

図書館へ行った帰りにP・・・へ行って、コーヒーとケーキをあつらえた。

出されたものをみて、何か変だな、と思うと、コーヒーに添えられているのが
ミルクではなくガムシロップである。

何故だか笑いだしたくなり、店の人を呼んでガムシロップをミルクに
替えてもらうかわりに、そのガムシロップを鞄にしのばせたので、あった。
# by fracoco-Y | 2007-04-29 21:32 | tea&coffee
ミルク・ポーション
ミルク・ポーション_e0132381_1523827.jpg

これを見ると、ヨーロッパを彷彿とする。

一見、何の変哲もない、コーヒーや紅茶に入れるポーションのミルク。

しかしこのポーション、日本ではクリームのところが、
英国やアイルランドのように、紅茶をよく飲む国では、
器がひとまわり大きくて、中のミルクも牛乳様なのだ。

喫茶店で紅茶を頼むと、場合によってはクリーム状の
ポーションが添えられていて、隔靴掻痒の感を味わうことがある。

…やっぱり紅茶にはミルクがほしい。と
軽い失望を覚えるのだが、このミルク・ポーション、
どうしてか日本で見掛けない。

だから、ロンドンの質実な学生寮みたいなホテルの部屋で、
牛乳のポーションと再会したときはむやみと懐かしかった。

旅愁を誘うこのポーション、日本でも店頭に並ばないかなぁ。
# by fracoco-Y | 2007-04-09 21:42 | tea&coffee
回送電車
昔、二年ばかり横浜のK…という街に住んでいたことがあった。

その二年は、社会人になった一年を含んでいて、
当時は毎日が午前様、といって過言ではない日々であったから
しばしば終電車に乗った。

私鉄K社の最終特急の到着を知らせるアナウンスは、どういうわけか
「まもなく深夜特急が到着します…」といったので、

学生時代に沢木耕太郎の「深夜特急」を読んだ私は、ほくそ笑んだ。
深夜特急、とは旅愁をそそられる。

ところで、堀江敏幸の「回送電車」を読みたいと思ったのは、
そのタイトルの語感もさることながら、

その中に「アエログラム」という一文が含まれているからだった。

4月8日、図書館で「回送電車」を借りてくると、
「アエログラム」から読み始める。

著者が昔、フランスへ本の注文を出すのにアエログラムを用いた話。

アエログラムとは、日本で言うところの航空書簡である。
一枚の紙にのりしろがついていて、
折り畳んで糊付けすると、そのまま投函できるようになっているのだった。
葉書より多くの文字が綴られるうえ、信書の秘密も保たれ、
ふつうの航空便より安価で、著者にとってはまさに、
一石二鳥だったのだ。

しかし、近年、フランスでアエログラムが廃止されたとの噂を聞き付け、
わざわざフランスの郵便局へ問い合わせると、
果たしてアエログラムは、もう取り扱わなくなった由、
著者は郵便局に「遺憾の意」を伝える…。

どこか、アナログの手巻き式腕時計みたいな雰囲気のある
堀江敏幸の「回送電車」
装丁もまたよろしく。

回送電車_e0132381_23222738.jpg

# by fracoco-Y | 2007-04-08 21:45 | book