本、建築、ときどき旅。
by fracoco-Y
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ちょっとピンぼけ
はじまりはこうだった。

ところはニューヨーク9番街のビルの屋根裏部屋。
ベッドのほかには家具とてない部屋に、
差し込む朝の光で目を覚ましたロバート・キャパ。

ポケットには5セント硬貨一枚きり。ぐうぐう腹を空かせ、
起き上がる気もなく、彼はベッドに横たわっている。
寝返りをうったところで、キャパは下宿の小母さんが
ドアの下から差し込んでいった3通の手紙に気がついた。
ここ3週間ばかり、来る手紙といえば、電話会社と電力会社からの
督促状二通と決まっている。
この3通目の不思議な手紙が、とうとう彼をベッドから離れさせた。

一通目は案の定、電話会社からの手紙。
二通目は司法省移民局から、「貴下、ロバート・キャパ、
前ハンガリー国籍、現在国籍不明は、爾後敵国人扱いに決定す。
したがってカメラ、双眼鏡、武器の所有権なし。また、ニューヨークより
10マイル以遠への旅行は、特別許可の申請を必要とす・・・」

そして三通目の手紙。
差出人は週刊誌コリアーズ編集部。
「緊急に戦時特派員として、英国に向かわれたし。
ついては前渡し金1500ドルの小切手封入の次第・・」

かくして彼は突如、洋上の人となるのだ。

英国での、ピンクがかった金髪の持ち主、ピンキィとのめぐりあい。
チュニス奪還作戦への同行。リバプールへの帰還。ピンキィとの再会。

アルジェへの出発、アルジェから、シシリア上陸。
シシリアでは、彼は果敢にも落下傘降下を試みて、
そして樹上に落下し、その晩一晩、樹と仲良く過ごす羽目になったりした。

ノルマンディ上陸作戦。
この死闘に、キャパはカメラを携えて立ち会ったのだ。

ーやがて、パリ解放。

「私はパリへ、私が飯を食うことを、酒を飲むことを、
そして女を恋することを初めて知ったあの美しい街、
パリへ帰って行くのだった。私のカメラのファインダーのなかの
数千の顔、顔、顔はだんだんぼやけていって、
そのファインダーは私の涙で濡れ放題になった。・・・」


彼を乗せたタンクが、昔の彼の家の前を通り掛かり、
彼はハンカチを振るアパートの門番に、
声の限り、セ・モア!俺だよ!俺だよ!と叫ぶ。

しかし、長かった戦争、長かった不在は、
キャパとピンキィの間に影を落とす。

「・・・ぼくは昔どおりさ」
「・・・私は、同じではないわ。この二年間、
あなたは自分のいいようにお過ごしになったけれど、
私は、ただ待つだけだったのですもの。」

・・・ヨーロッパ戦争終焉。

この本を読むと、キャパの文章はまるで、
ロストジェネレーションの作家の文章のようだ、と思う。

とりわけ、彼がパパと呼んで親しんだヘミングウェイの文章に、
どこか通じるものを感じる。

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by fracoco-Y | 2006-04-23 11:59 | book