本、建築、ときどき旅。
by fracoco-Y
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ほーびに抱いてあげます
先日、図書館で
何かおもしろい本はないかなぁ、
と物色していて。

たまたま手に取った鴨居羊子の本。

ーあ、これは。
森茉莉、武田百合子の文章に通じる匂いを感じて、
私はうれしくなった。
率直で、歯に衣着せない物言い。
天衣無縫、ワガママ、かつ
細やかな眼差し。

鋭い言語感覚はどこからくるのだろう?
と思ったら、
もと新聞記者だった。のちに下着デザイナーに転身。

すばらしい色彩の、ヘタウマとも言える絵を描くし、
ノラ犬、ノラネコと話ができる。

彼女が子供だったころ、
ねずみ捕りにかかったねずみが、
野菜くずなど行儀よく両の手で持って食べるところを見ると
とても殺すにしのびず、
野原へ連れて行って放してやったら、
ネズミは降って湧いたあまりの幸福をにわかには信じかねて
しばらくその場でぼーっとしていた、
など
なぜかおもしろせつない話の数々。

明治生まれのすぐれた気性の母上が、
「今度成績がよかったら、お母さんがほーびに抱いてあげます。」
と言ったエピソードにもぬくもりがあり。
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by fracoco-Y | 2008-09-29 23:46 | book
武田百合子の世界
昨日、図書館で武田百合子を3冊借りる。
「遊覧日記」
「ことばの食卓」
「日々雑記」
すいすい読んでしまって、惜しくなる。
一昨日、犬が星見た、を読んだから、
あと、まだ私が読んでいない武田百合子は
「富士日記」くらい、なのだ。
う~、もっと読みたい。

娘と一緒に浅草花やしきに行ったり、
群馬のヘビセンターに行ったり(ちなみにそのヘビセンターは
各種のヘビが見られるだけでなく、ヘビのフルコースが食べられたりする。)
富士の山荘に出かけたり。
(山荘ではトイレが工事中で、余儀なく庭で用を足したら、
一部始終を見ていたネコの玉が、やってきて土をかけてくれた。)
昔のキャラメルや牛乳の思い出。

何気ない日常なのだけど。

武田百合子の眼差しを通してみると、
ガード下の500円のスキヤキも
オムレツ専門店のイマイチなオムレツも、
特別なものに思えてくる。

武田百合子+娘、花+三毛ネコの玉。
二人と一匹の生活。
母と娘のやりとりもいい。

物書きの母と写真家の娘。
共同の仕事で佐渡取材旅行。

何だかな、いいなぁ、って思う。
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by fracoco-Y | 2008-03-30 22:18
犬が星見た
天衣無縫な文章、ってこういうのを言うのだろうかなぁ、と思う。
武田百合子「犬が星見た」を読んで。

タイトルもイイ。
犬が星見た、なんて。
それは、武田百合子がある晩、路上でビクターの犬よろしく
小首をかしげて空を見上げる犬を見かけたことに由来する、らしい。

夫、武田泰淳と、泰淳の盟友竹内好とともに、
ロシア・ツアーに参加した武田百合子。

時は1969年。
1ドル360円の時代。(この年大学を卒業したボスに聞いた。
学食のランチが100円で食べられたそうである。)
だから、ツアーと言っても当世のようにやたら参加人数が多くて
取り留めのない旅行ではなくて、旅行社のコンダクターを含めて
10人の、3週間に及ぶ旅の記録である。

まず、横浜から出港する船、というところに時代を感じる。
成田からひとッ飛び、ではないのだ。
関西から参加した人々もいて、関西組は陶器の研究者と
美術を愛好する実業家数名。
船は太平洋を北上して津軽海峡を抜け、一路ナホトカへ。

武田百合子は船中の食事について記録する。
(これは旅行中を通して一貫している。時々ウマイとかマズイとか
書かれてある。中央アジアではやたらとチャイとシャシリク
が出てくる。そういえば、シャシリクって何だろう。)

「オバサン、カヨ子さん?外人は好き?」と尋ねてくる西洋人の男の子。
それに、「オバサンは象と豚とライオンが好きだよ」と応える百合子。

ナホトカ到着後、列車でハバロフスクへ。
ここで1泊。
ハバロフスクから飛行機でイルクーツクへ。
(機内でアメを貰ったが、あまり離陸に時間がかかるので、
離陸したときには食べ終わってしまっていた。)
機内ではキャビアが出たりなんかするのだ。

イルクーツクで飛行機を乗り継ぎ、ノボシビリスクへ。
本当は、この日のうちに再々度飛行機に乗り、アルマ・アタへ向かう
はずだったが、遅れに遅れてノボシビリスクで足止め。
空港宿舎に1泊。
後の予定があるので、翌日のアルマ・アタ滞在はキャンセル、
乗り継ぎのみで、タシケントに向かうことに決まる。
泰淳はそれが無念で、「どうしてアルマ・アタに行けないのかなあ」と
そればかり繰り返す。

ロシアは広いので、乗り継ぐごとに時計を遅らせたり進めたりして
読んでいるうちに、こちらも時差ぼけのようになってくる。

ツアー参加者の最年長は80になる錢高老人で、
この人がまた天真爛漫。
関西の土木建築会社の会長さんなのだそうだ、というくだりを読んで、
ふうん、どこの会社だろう、と思いつつ読み進めていったが、
にわかに、そうか錢高組、と気がついた。

大阪では、運転手や秘書やに囲まれる生活をしていて、
ツアーでは、最高齢ということで、敬意は表されつつも、
誰も変に特別扱いしないのを、錢高老人は喜んだらしい。
たいへんなヘビースモーカーで、いたるところでつい煙草を吸ってしまい、
ロシア人に叱られたりするのを、どこか嬉しがっているようなそぶりさえ
見受けられる。

コンダクターの山口氏。
気働きがあって、それでいて押し付けがましいところのまったくない、
まだ青年と言っていい年頃ではないかと推測せらる人物。
この人の働きには一同感じ入っていて、旅の終わり近くには
一人頭5ドルの献金をしよう、と話がまとまる。

そして、もっぱら、ビールやウオトカやワインを飲んだくれる泰淳と竹内。
(百合子もちょくちょく相伴する。)
「百合子、面白いか、嬉しいか。」と百合子に訊く泰淳。
「まだ面白くも嬉しくもない。だんだん嬉しくなると思う」と応える百合子。
そして武田百合子は夫・泰淳の世話を、じつはまめに見ている。

さて、これから中央アジアとサンクトペテルブルク、モスクワを旅しよう、
という人が、この本をガイドがわりに読んで参考になるか、といえば、
多分、そういう意味では役にたたないかもしれない。
(あちこちの名所旧跡のコメントはひどくあっさりしている。)

しかし、旅が終盤に差し掛かり、皆、旅に少しずつ倦んできて
空港の待合室で、お互いちょっとずつ離れて座ったり、

モスクワでのツアー解散後(日本まで一緒くたになって帰ってこない
ツアーというのもあるのだ)
北欧に渡った3人が、コペンハーゲンの噴水の向こうに見える
アメリカの旅行者を眺めながら繰り広げる
「旅行者って、すぐわかるね。さびしそうに見えるね。」
「当り前さ、生活がないんだから。」
「犯罪に時効ってあるじゃない。十年目とか十五年目とか。
でも外国へ行っていた間の年月や時間は勘定に入れて
くれないんだってね。
・・・・・なるほどと思うなぁ。」
という会話。

そういう描写を読むにつけ、
ああ、ただ天衣無縫な文章、っていうわけじゃないんだ。
と思う。

武田百合子「犬が星見た ロシア旅行」中公文庫
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by fracoco-Y | 2008-03-29 02:14 | book