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本、建築、ときどき旅。
by fracoco-Y
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悲恋のその先。
悲恋のその先について。

むかしむかし、幼い子供だった頃、私は傘に激しく執着する子であった。
母が隠しておいても、家中の傘を探し出しては開いていたそうだ。
イタリア製の白い日傘を買い求めたのは3年前。

2年前には、パリの街角ですてきな傘屋を見かけた。
それは、映画「シェルブールの雨傘」に出てくるような、
小粋な傘の店であった。

さて。
久々に映画を見た。
「シェルブールの雨傘」そして「ロシュフォールの恋人たち」
シェルブールの雨傘、公開45周年を記念するデジタル・リマスターバージョンの上映。

シェルブールの雨傘、あらすじはずいぶんと有名だから、ご存知の方も多いだろう。
フランス北西部の町、シェルブールでつつましくも幸せな恋人同士であった
若いジュヌヴィエーヴとギイ。
結婚を誓い合う二人に、ジュヌヴィエーヴの母はまだ若すぎると反対。
それにもめげない二人だったが、ある日ギイに召集令状が届き・・・・・。

ギイの出発後、彼の子を宿したことに気がつくジュヌヴエーヴ。
娘の身を案じ、懐妊を祝福しながらも心配顔の母。
やがて、妊娠を承知の上で、彼女にプロポーズする宝石商、カサール。

私は、この映画を少しく誤解していたようだ。
愛し合いつつ、引き裂かれる恋人たち。
不本意な結婚。悲恋。生涯忘れ得ぬ恋。
愛のない、味気ない生活。
そういう映画だと思っていたのだ、けれど。

少し違っていた。

ギイの向こう2年間の不在。
不在の重みに押しつぶされそうになるジュヌヴィエーヴ。
身ごもっていることを百も承知で、すべてを受け入れ、
彼女を愛し、生まれてくる子をともに育てて行こうと語りかける
カサールへの信頼の芽生え。

彼女は自分の意思でカサールに嫁いで行くのだ。

一方で、除隊後、シェルブールに戻り、彼女の結婚を知るギイ。
自暴自棄になる彼をたしなめ、叱る幼馴染、マドレーヌ。
マドレーヌは、ギイがジュヌヴィエーヴと恋仲であるころから
彼を密かに思っていたが、おとなしい性格ゆえ、気持ちを打ち明けることは
なかったのだった。

しかし、マドレーヌはおとなしいだけの女性ではなかった。
荒れた生活を送るギイに、そういうあなたは嫌いだと
はっきりと告げる。

マドレーヌの支えで、しだいに自分を取り戻すギイ。
お金を貯めて、店を買い、シェルブールでガソリンスタンドを開く。
マドレーヌを人生に必要な人と感じ、所帯を持ち、
マドレーヌとの間に男の子を授かる。

数年後、クリスマス目前の雪の降りしきる日、ガソリンスタンドに
一台の車が横付けされる。
降り立ったのは身なりのよいマダム。
その人こそ、カサールと結婚したあの日、シェルブールを去った
ジュヌヴィエーヴその人だったのだ。

マドレーヌは息子を連れて買い物に出かけて不在。
ギイとジュヌヴィエーヴはスタンドの事務所でしばし語り合う。

けれど、それは涙涙の再会ではなかった。
愛惜と、わだかまりと、今ある幸せと、
二人の胸に去来したのはさまざまな思いであったことだろう。

悲恋は、悲恋。

でも、悲恋のその先=不幸ではないのだ。たぶん。
by fracoco-y | 2009-02-22 23:41 | cinema
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